そこに海があって…
昨年冬に発売されたエロゲーである.人気ブランドageの姉妹ブランド「mirage」の処女作ということで大ヒットが見込まれていたようであるが,予想(というか期待)に反して在庫の山を築き,今年に入って早々から捨て値で叩き売られている状態だ.
実際の内容はどうかというと,かなり厳しい出来である.80年代粗製濫造OVAもかくやという問題の多い出来のシナリオ,出来栄えにかなりばらつきのあるグラフィックなど,発売前のユーザー諸兄の直感・審美眼はかなり鋭いと言えよう(笑)
このゲームの感想を敢えて書こうと思ったのは,個人的にかなり気になったキャラクターがいたからだ.鮎川美奈萌というキャラクターである.
いろいろなレビューサイトを見て回ったところ,彼女からは「君が望む永遠」というゲームのマナマナなるキャラクター(あるいはシナリオ)を連想する人が多いようだが,私はそのゲームは未プレイなのでよくわからない.私が思ったのは,この人は「ソフィスティケートされた「好き好き大好き!」の木更津みるくだ」ということだった.
「愛」というものは人それぞれの考えや思いがありまた表現のされ方も多様だと思うが,ある人を独占したいというような形の愛を突き詰めてしまうと不幸な結末を辿ることが多い.愛と称したエゴを増幅させた感情の押し付けは,押し付けられる側はたまったものではないからだ.そうは言ってもその種の感情のコントロールがたやすくできないのが,普通の人間だと思う.好きになった人には,自分を好いて欲しいしいつまでも自分のそばにいて欲しい,と思う.
「好き好き大好き!」の主人公の青年と木更津みるくは,その種の押し付け方の愛情を極限まで純粋に表現しているため,プレイヤーの受け取り方は両極端に分かれる.嫌悪を抱くか,シンパシーを感じるかのどちらかだ.そして,私は(少数側と思われる)後者の側に立つ.
「ここに海があって…」ではザッピングシステムなるシステムを提供しており,特定のある場面において複数のキャラクターの視点でテキストを読むことができる.鮎川美奈萌視点のテキストを読むと,片想いの少年の前に突然現れた夕凪という少女に対するジェラシーの感情で埋め尽くされている.そして彼女メインのシナリオにおいて,自分の恋愛感情が報われることがないと悟った彼女のとった行動とは…….
人を好きになることによって自己中心的な欲求が表面化し,否応なく自分の醜さに気づかされる.「ここに海があって…」の鮎川美奈萌のシナリオは,一言で言ってそんなシナリオだ.彼女自身がゲームの本流から外れた存在となっているためか,「暴走」する余地が発生した,という気もする.
レビューサイトを回って見ると,鮎川美奈萌というキャラクターは不快感しか感じられないという人もいるようだ.無理もないと思う.だが,全体として今ひとつの出来であった「ここに海があって…」という作品の中では,唯一血の通ったキャラクターだったと私には感じられた.彼女の手にした「幸せな結末」にカタルシスを感じたと言ってもいい.
人を好きになって,でもその人は自分を好きになってくれることはない.では,自分の恋愛感情は,どうしたらいいのだろうか? 恋愛物のありふれたテーマだが,そんな話の方が私は好みなので鮎川美奈萌は大して旨みのない「そこに海があって…」という作品を救ってくれたな,と感じたのだった.

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