2004.02.10

懲りない面々って誰のこと?

面倒くさいと思いつつ,かなり引っかかりを覚えた記事だったので愚直に猪突猛進してみよう.
CNETの半導体による復活という幻想と懲りない面々という記事について.この記事を書いている森さんという人はこの記事の冒頭で

「日本の産業は半導体で復活する」など、ウソも甚だしい。

と断言しているんだけど,その主張を裏付けるファクトなり説得力のある洞察を提示するには至らず,「デジタル三種の神器」というキーワードに単に噛み付いているだけ,という印象しか持てなかったな.

そもそもこの記事の批判対象がはっきりしない.「デジタル三種の神器」で「半導体で日本復活」をどこのどなたが唱えているのかをはっきり明示してもらわないことには,読者の私としては「なんだかなあ」と思う他はない.森さん,あなたは誰に対して憂いを抱いているの?

以前のエントリーで、「デジタル三種の神器」というフレーズは発売元のメーカー側の願望であって、消費者自身にとって必ずしも適切な表現ではないと明確に述べた。

とあるので,以前のエントリーっぽい記事を読んでみる.要約すると,デジタル三種の神器とされる「薄型テレビ・デジタルカメラ・DVDレコーダー」はリプレースを狙う既存の家電製品に比べて現在高価であり「圧倒的な価値訴求力を持っているかというと若干怪しいという気がする」ので三種の神器呼ばわりは違うだろ,という話みたいだ.

温故知新という古人の教えにしたがって,「家電 三種の神器」でぐぐってみよう.いろいろ引っかかる中で簡潔に説明してくれているここらへんで確認して「家電の三種の神器」について簡単に定義してみたい.三種の神器と呼ばれた家電製品は時代の変遷とともに変化していくが,共通項としては(1)その時点での消費者ニーズを強く満たしている製品であること,(2)庶民にとっての高嶺の花=あこがれの製品であること,があげられると思う.

奥行きのデカいCRTテレビ,期待通りの画が取れたか確認できず取り直しのきかないフィルムのカメラ,大きくてかさばるテープメディアの弱点を抱えるVHSビデオレコーダ.これら旧来の家電製品の難点を覆い隠すことはできないし,機会があれば買い換えたいと希望している向きも相当数多いかと思う.そんな人がどれだけいるかを定量的に示すデータを私は持っていないけど,メーカーの皮算用通りにいくかはともかくとしても利便性に問題を抱えている既存製品が順次「デジタル三種の神器」とやらにリプレースされていくのは流れとして想像しやすい.デジカメはすでに二束三文の値段でそこそこの画が撮れる物が手に入るし,薄型テレビやDVDレコーダーもいずれ価格破壊が起こって三種の神器でも何でもない当たり前の家電製品になっていくんだろう.

各人が好き勝手に生きている今の世の中で「家電製品の三種の神器」にこだわることはナンセンスだよなという感じはするんだけど,しかし森さんの「以前のエントリー記事」のどの辺りで,「薄型テレビ・デジタルカメラ・DVDレコーダー」がデジタル三種の神器と呼ぶには不適切なのか,その理由がさっぱり読み取れない.現時点での高価格という一見ネガティブさも,みんなの憧れの対象=三種の神器たりうるには重要な要素だし.ていうか,森さんの「家電製品の三種の神器」の定義が曖昧なので,何に・誰に対して批判しているんだかがそもそもよくわからないんだけど,

むしろ、前述したとおり、一種の集団的無意識が成しえた業である可能性があると思うのだが

これに対してだとしたらただの電波記事だぞ.

元の記事についての話に戻す.日本の産業が復活するかはともかく(笑),日本の半導体メーカーにとっては付加価値のあるシステムLSIの応用分野・売り込み先として,液晶・プラズマディスプレイやDVDレコーダーの市場は現在進行形で語れる市場であり,価格破壊が起こる近い将来に至るまで有望である,また価格破壊後の市場の勝者が誰になるのかはまったく不透明.というのが現在の私の認識.その認識は誤りである,と思わせるだけの説得力ある意見を,森さんの上記の2つの記事からは見出せなかった.

結局「デジタル三種の神器」の分野でも韓国・中国のメーカーには価格競争では勝てないだろうという悲観的な見方を表明しているだけ?DRAMの一件からの類推で言ってるんだとすれば,ラフすぎるよ.NECも山形工場を売却するこのご時世,日本のメーカーも生産拠点を海外に移行しているので価格競争で韓国や中国のメーカーが絶対的なアドバンテージを今後も持ち続けるとは考えにくいんだけど.

適切なマーケティングと将来の市場動向の分析により戦略を定めて有限のリソースを設計・開発に割り当ててユーザーに(できれば想定アプリ込みで)売り込んでいく.日本の半導体メーカーが生き残っていくには言うは易し行うは難しの苦行を愚直に続けていくしかないが,「デジタル三種の神器」はその一つの成果として捉えるべきなんじゃないか.その中で使われているチップって,「デジタル三種の神器」が登場するはるか前,DRAMの分野でコケてこれからは付加価値の高いチップをつくらなければ生き残れないという半導体メーカーの必死の決意で開発された代物なんだからさ.

最後に付け加えると,成果なのでつまり「デジタル三種の神器」は半導体メーカーにとってはすでに過去の出来事であり,幻想というならば過去に抱いた幻想というべきじゃないかな.もし,日本の半導体メーカーが幻想を抱いているとするならばまったく別の幻想であるはずであり,そうでなくちゃ困る(笑)

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2004.01.24

自説の中でのファクトの持ち出し方の落とし穴

ココログからCNETへのトラックバックが可能かどうか,テストを兼ねて投稿してみる(笑)
無理矢理要旨をまとめるとすると,自分の主張を裏付けるためのファクトを持ち出すときはできる限り誠実でありたいね,という話.単にお前は元記事に対する突っ込みがやりたかっただけだろ,指摘があればそれは否定しません(笑)

池田信夫氏の「『デジタル家電バブル』の落とし穴」という記事の中で導こうとしている結論は基本的に同意するんだけどねえ.さらには池田氏が事あるごとに表明する,氏の主張の根底にあるもの――今後のブロードバンドおよびデジタル家電におけるコンテンツの重要性の指摘と,それらコンテンツに対して近視眼的な方策しかとれない政府や関係団体に対する問題意識――もまったく同感なんだけれど.

だけど,この人の書いた記事を読むと牽強付会って言葉が脳裏に浮かびます.自分の主張を裏付けるための論理展開をしていく上であるファクトを持ってくるときに,単なる氏の思い込みで書いてないか,または自説に都合よく変奏していないかと思える箇所が現れてくる.

パソコンも半導体も、日本が世界市場で競争に敗れた分野だからである。1980年代、IBM-PCによって世界のパソコンが標準化され、モジュール化された部品をグローバルに調達して組み立てた低価格のPC互換機が世界中に登場したとき、日本のメーカーだけは「PC-9800」や「FMタウンズ」などの独自規格にこだわり、世界に通用しないローカル商品を作り続けた。1990年代になって、ようやくPC互換機(DOS/V)を作り始めたころには、世界の部品工場はアジアに、組み立て工場は米国に集中して、日本メーカーの居場所はなかった。

私の記憶が正しければ(情報元は,えーと確か80年代のアスキー誌あたりだったと思う),アメリカのビジネス向けPC市場などでは本家IBMのIBM-PCとその互換機がシェアを分け合っていて,NECなどの日本メーカーも互換機市場に参入して一定のシェアを得ていたという話で.昔,NECとEPSONがPC-9801の互換機問題で揉めていた頃,NECは海外でIBM-PCの互換機市場で儲けているくせに自分のところの製品で互換機が出てきたら文句を言い出すのは筋が通らないぜ,みたいな突っ込みがあったように記憶しています.

トヨタ・クラウンのように,PC-98,FM-TOWNS,X68kは日本国内オンリーのドメスティックな機種であって,日本のコンピュータメーカーは国内と海外では別の方法でビジネスをやれることができた.その背景には日本語の取り扱いという問題があって,日本語取り扱い可能なアプリケーション資産を豊富に持っていたPC-98シリーズは廉価なIBM-PC互換機の日本上陸を食い止め,FM-TOWNSやX68kはその強力なマルティメディア(恥)機能を強みとしてニッチなユーザーを拾い上げていた.で,「DOS/V」「Windows」という日本語対応OSをひっさげてIBM-PC AT互換機のメーカーが勝負を挑んできたときに,日本のPC市場は一変してしまうわけね.

日本語取り扱いという独自のアプリケーションを海外コンピュータメーカーの日本市場参入障壁として利用はしていたかもしれないが「独自規格にこだわり」という表現は違うでしょう.あとPC98シリーズやFM-TOWNSのアーキテクチャはメーカーの「独自仕様」だとは思うが,それは規格って呼ぶ代物じゃねーだろ,というツッコミもしておきたい(笑)

あと,この記事中でリンクが張られている池田氏の別記事「第9回:いくら失敗しても懲りない「日本発の標準」づくりの愚」もPC向けOSと組み込み向けOSをごっちゃに議論していて,いかにも雑誌記事だなと思わせる煽り臭さといい,なんだかなあ,という感じだ.

最近、坂村氏は「Tエンジン」というトロンの標準化プロジェクトを作ったが、組み込み用OS(基本ソフト)としてはリナックスが国際標準になりつつあり、日本ローカル規格のトロンが国際標準になる可能性はない。先ごろマイクロソフトとの「和解」が話題になったが、ウィンドウズCEも組み込み型では少数派であり、これは日本むけの「弱者連合」にすぎない。

将来の組み込み向けOSで,何がデファクトスタンダードになるかはまだはっきりしたことは誰にも言えないと思う.ただT-Engine関係の最近のニュースを見る限りでは,T-Engineが考えていることはハードウェア仕様とリアルタイムOS仕様といった下位階層の標準化であって,上位階層でUIやAPIを提供するOSとしてLinuxやWindowsCEを取り込もうとしているように私には見える.

池田氏にアドバイスすることがあるとすれば,「μITRON」というキーワードでGoogleなどで検索を行ってみなさい,ということ.というのも,

坂村氏がこういうナショナリズムをあおるのは、今回が初めてではない。15年前に彼が進めた「トロン計画」も、すでにMS-DOSという国際標準があったのに、それとは別の「日本発」の標準を作ろうとして失敗した。

上のような記述を目にすると,どうも池田氏はTRONについての基本的な知識が欠けているように思えてならないのです.

TRONといっても色々あって,その詳細は総本山にでも見に行ってもらうこととして,上記引用記事中で一敗地にまみれたのはPC用途として想定されたBTRON(Bussiness TRON)と呼ばれるもの.一方でNHKのProject-Xというお涙頂戴寸劇の題材となったITRON(Industrial TRON)を「失敗」と断ずるには,よっぽどでかいファクトを持ってこないといけないんじゃないの.

「失敗」と断じているのはPC向けのBTRONなんだよなあ.でも「いくら失敗しても懲りない「日本発の標準」づくりの愚」で槍玉にあげられているのは「ユビキタスID」でそれに関連するファクトとして,組み込み用OSの「T-Engine」と「TRON」が取り上げられていると.なんだこりゃ.

「経済産業研究所 上席研究員 」という立派な肩書きをお持ちの池田先生が,私ごときが指摘するようなTRONに初歩的な知識が欠落しているとも思えない.または,記事を書く上で事実確認のための調査を実行されなかったとも思えない.だとすると,意図的に話をごちゃ混ぜにして,自分が導きたい結論のために都合よくファクトの一部を引っ張り出したりしてるのかな.まさかとは思うけど.

以上の話を書いている途中,Googleで昔の日本製IBM-PC互換機の情報を漁ってみたり(結局いいネタは見つからなかった),T-EngineやTRONについておさらいの意味で各サイトで確認をしたりなんてことを私はやっていましたが,同じ作業を池田氏も実行していると信じたい,とこの場では言っておきます.

(ここまでお読みの方へ)
お疲れ様でした.長くて読みづらい文章を最後までお読みいただきありがとうございます.過去記事の表示などでお察しのことと思いますが当blogではこのような話題の記事が投稿されることはめったにありませんので,その辺り誤解のなきようよろしくお願いいたします(笑)

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